【コラム】養殖カキの歴史と変遷――広島から世界へ、海の恵みの物語

牡蠣――それは海のミルクとも呼ばれる、栄養豊富で濃厚な味わいを持つ海産物

日本では冬の味覚として親しまれ、広島県はその一大産地として知られています。

以前に今年の漁解禁に伴う不漁についてのブログを書きましたが、今回は牡蠣の歴史を紐解くことにより、世界と日本それぞれに深い物語があることが見えてきましたのでご紹介します。

【コラム】養殖カキの歴史と変遷――広島から世界へ、海の恵みの物語

🌍 世界における牡蠣養殖の起源 — 古代ローマの知恵

牡蠣養殖の歴史は、紀元前1世紀の古代ローマにまで遡ります。

ローマ人は海岸に石を積み、牡蠣が付着・成長する環境を人工的に作り出しました。
この「石積み式養殖」は、世界初の牡蠣養殖法とされ、貴族階級の贅沢品として珍重されました。

その後、フランスやイギリスなどヨーロッパ各地でも養殖技術が発展。
特にフランス・ブルターニュ地方では、17世紀以降に制度的な養殖が整備され、現在も世界有数の牡蠣産地として知られています。

🗾 日本の牡蠣養殖のはじまり — 広島が誇る海の知恵

日本における牡蠣養殖の発祥地は、広島県
室町時代後期(天文年間・1532〜1555年)に、安芸国(現在の広島市草津地区)で養殖法が考案されたという記録があります。

📜 歴史的記録

  • 『草津案内』(大正13年):草津村役場が発行した資料に「天文年間、安芸国において養殖の法を発明せり」と記載。
  • 貝塚の出土品:広島市内の矢野、牛田、祇園などの貝塚から牡蠣の殻が出土。縄文・弥生時代から食されていたことがわかります。

🧭 国内各地の養殖文化と技術の発展

広島が発祥とされる牡蠣養殖ですが、全国各地でも独自の技術と文化が育まれてきました。

🏯 宮城県(松島湾)

  • 江戸時代から牡蠣の採取が行われていた地域。
  • 明治期には養殖技術が導入され、現在では「仙台かき」「松島かき」としてブランド化。
  • 冷涼な海水と豊富なプランクトンにより、身が締まり味が濃厚。

🐚 三重県(的矢湾)

  • 昭和初期に「的矢かき」が誕生。
  • 特徴は「完全閉鎖式養殖」:海水を浄化した専用水槽で育てることで、ノロウイルス対策を徹底。
  • 安全性と品質の高さから、贈答用としても人気。

🧊 北海道(厚岸町など)

  • 養殖の歴史は比較的新しいが、天然資源が豊富。
  • 厚岸湾は水温が低く、通年出荷が可能な珍しい地域。
  • 「厚岸かき」は加熱しても縮みにくく、濃厚な旨みが特徴。

🌊 岡山県(日生・虫明)

  • 瀬戸内海の穏やかな海域を活かした養殖。
  • 小粒ながら味が濃く、地元では「焼きかき」文化が根付いている。

🦪 養殖技術の変遷――広島が築いた革新の系譜

広島では、時代とともに養殖技術が進化してきました。

時代養殖法特徴
室町〜江戸石蒔式・地蒔式海底に石や貝殻を撒いて自然付着を促す
明治〜大正ひび建て式竹や木の枝を海中に立てて付着させる
昭和初期杭打垂下法海底に杭を打ち、縄を垂らして養殖
昭和中期〜現在筏式垂下法筏から垂らしたロープに牡蠣を付着させる。効率・品質ともに優れる

この「筏式垂下法」は、広島が世界に誇る技術。
波の穏やかな瀬戸内海の地形と相性が良く、安定した品質の牡蠣を大量に生産できるようになりました。

広島湾のカキ養殖

🏷️ ブランド化と現代の広島かき

現在、広島県は日本最大の牡蠣生産地。
全国シェアの約6割を占め、年間約2万トン以上の出荷量を誇ります。

主なブランド

  • 広島かき:全国的に流通するスタンダードブランド
  • かき小町:広島県水産振興センターが開発した大粒品種。加熱しても縮みにくい
  • 安芸津かき・江田島かき:地域名を冠した地元ブランドも人気

また、広島では「かき祭り」「かき小屋」など、観光資源としても牡蠣が活用されており、地域経済に大きく貢献しています。

🌱 養殖の未来とサステナビリティ

近年では、環境負荷の少ない養殖法や、海洋プラスチック問題への対応も進んでいます。
広島県では、SDGsの観点から「海の豊かさを守る」取り組みとして、養殖筏の素材改良や海底清掃活動なども行われています。

牡蠣は海水の浄化作用も持つ生物。
養殖は単なる生産活動ではなく、海と共生する知恵でもあるのです。

✍️ まとめ:牡蠣は文化であり、技術であり、誇り

牡蠣養殖の歴史を辿ると、古代ローマの石積みから、広島の筏式垂下法まで、技術と環境の融合が見えてきます。

そして今、牡蠣は「食材」以上の存在——地域の誇りであり、海との対話の象徴です。

広島に生きる私にとって、牡蠣はただの冬の味覚ではありません。
それは、海と人が築いてきた物語そのものなのです。

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