【News】ノーベル賞受賞の先にある未来――坂口氏と中外製薬の10年

免疫学の巨星と製薬の雄が描く未来

―中外製薬と坂口志文氏が育む創薬力、ノーベル賞受賞の裏にある10年の協業―

2025年10月、世界の医学界に大きな衝撃と祝福が走った。

大阪大学免疫学フロンティア研究センター特任教授・坂口志文氏が、制御性T細胞(Treg)の発見とその免疫抑制機構の解明により、ノーベル生理学・医学賞を受賞したのだ。

自己免疫疾患やがん治療に革新をもたらすこの発見は、基礎研究の枠を超え、創薬の現場に深く根を下ろしている。
そしてその実装を支えてきたのが、中外製薬との10年にわたる産学連携である。

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阪大と中外製薬、創薬の地平を拓く協業の軌跡

坂口氏と中外製薬の関係は、単なる共同研究の枠を超えた「創薬共創」のモデルケースといえる。

2016年、中外製薬は大阪大学免疫学フロンティア研究センター(IFReC)と包括的連携契約を締結。
以来、同社は坂口氏の研究室と密接に協働し、制御性T細胞のメカニズムを応用した新薬開発に取り組んできた。

この連携の成果は、2025年3月に英科学誌『Nature』電子版に掲載された論文に結実する。

論文では、制御性T細胞が特定の免疫応答を抑制する分子機構を詳細に解明し、それを標的とした新規抗体医薬の可能性が示された。
中外製薬の研究陣も共著者として名を連ねており、産学連携の成功例として国内外から注目を集めている

制御性T細胞とは何か――免疫の「ブレーキ役」

制御性T細胞(Treg)は、免疫系の暴走を防ぐ「ブレーキ役」として機能する。

通常、免疫細胞は外敵に対して攻撃を仕掛けるが、過剰な反応は自己免疫疾患を引き起こす。
Tregはこの過剰反応を抑えることで、免疫の均衡を保つ

坂口氏は1995年、Tregの存在を初めて報告。
以来、彼の研究は免疫学の常識を覆し、がん、アレルギー、自己免疫疾患など多岐にわたる疾患の治療法開発に道を開いた。

中外製薬はこの知見をもとに、Tregの活性を制御する抗体医薬の創製に取り組んでいる。

中外製薬の創薬力と技術基盤

中外製薬は、抗体医薬やバイオ後続品(バイオシミラー)に強みを持つ国内屈指の製薬企業である。

スイスのロシュ社との提携により、グローバルな創薬ネットワークを活用しつつ、日本発の基礎研究を世界市場に展開する力を持つ。

坂口氏との協業においても、同社は「創薬の出口戦略」を明確に描いてきた。

例えば、制御性T細胞を標的とした抗体「BP1202」は、自己免疫疾患に対する新たな治療選択肢として期待されている。
また、がん免疫療法においても、Tregの抑制による免疫活性化を目指す薬剤開発が進行中だ。

産学連携の新たなモデル――「対等なパートナーシップ」

この協業が特筆すべきなのは、企業と研究者が「対等なパートナー」として協働している点だ。

中外製薬は、研究成果の商業化だけでなく、基礎研究の深化にも資源を投じている。
坂口氏も「企業との連携が研究の幅を広げ、社会実装のスピードを加速させた」と語る。

このような産学連携は、日本の創薬エコシステムに新たな可能性を示している。
従来の「成果の買い取り型」から、「共創型」へと移行することで、研究者の自由度と企業の実装力が両立する仕組みが生まれている。

ノーベル賞受賞の先にある未来

坂口氏は受賞に際し、「うれしい驚きだった。これまで支えてくれた仲間に感謝したい」と語った。

中外製薬の奥田修社長も、「坂口先生の業績は、医学に重要な転機をもたらすもの。今後も革新的新薬の創製を目指して協力を続けたい」とコメントしている。

この協業は、単なる受賞の祝賀にとどまらず、日本発の免疫学的創薬が世界を変える可能性を示している。

高齢化社会の進展とともに、自己免疫疾患やがんの治療ニーズはますます高まる。
その中で、坂口氏と中外製薬の連携は、科学と産業、そして患者の未来をつなぐ架け橋となるだろう。

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