—SDGsと消費者行動の間で揺れるサステナブルの理想と現実—
「環境にやさしいから紙ストローに変えました」
そんな言葉を聞いたのは、もう何年も前のこと。
プラスチックごみ削減の流れを受けて、紙ストローは一時期、エコの象徴としてもてはやされました。
しかし2025年現在、その紙ストローが静かに姿を消しつつあります。
スターバックスやマクドナルドなどの大手チェーンは、紙ストローの使用を廃止し、代わりにバイオマスプラスチック製ストローや飲み口付きフタへの切り替えを進めています。
この流れは、SDGsの理念と現実の間にあるギャップを浮き彫りにしているように感じます。

🧃紙ストロー導入の背景
紙ストローが注目されたのは、2018年頃から。
海洋汚染やマイクロプラスチック問題への関心が高まり、企業は環境配慮の姿勢を打ち出す手段として、プラスチック製品の代替を模索し始めました。
紙ストローはその象徴でした。
SDGsの「目標12:つくる責任 つかう責任」や「目標14:海の豊かさを守ろう」に沿った取り組みとして、導入企業は「サステナブルなブランド」としてのイメージを強化しました。
当時は、環境に配慮する企業としての評価が高まり、消費者も「紙ストロー=エコ」という認識を持っていたように思います。
🚫廃止の理由:理想と現実のギャップ
しかし、紙ストローの使用は長く続きませんでした。
その理由は、実際に使ってみた人なら誰もが感じたことかもしれません。
- 使いづらさ:ふやける、口当たりが悪い、飲み物の味が変わる。
- 衛生面の懸念:紙粉の混入や包装の衛生管理が難しい。
- コストと廃棄の問題:製造・輸送に意外とエネルギーがかかり、リサイクルも困難。
結果として、「環境にやさしいつもりが、実は非効率だった」という逆説的な状況が生まれました。
企業は、消費者満足度と環境負荷のバランスを再考する必要に迫られたのです。
🥤マクドナルドの選択:紙もストローも廃止へ
2025年、マクドナルドは紙ストローの使用を廃止しました。
しかしそれだけではありません。
ストローそのものの使用も大幅に削減する方針を打ち出しました。
- 紙ストローは廃止:使いづらさや衛生面の課題から提供終了。
- ストロー自体の提供も縮小:マックシェイク®や子ども用ドリンクを除き、基本的にストローは提供しない。
- 代替手段:リサイクルPET製の「飲み口付きフタ(ストローレスリッド)」を導入。
- ストローなしで直接飲める設計。
- テイクアウトやデリバリーでも漏れにくい構造。
- 3年以上かけて開発された専用設計。
この変更は、SDGsの「目標12:つくる責任 つかう責任」や「目標13:気候変動対策」に沿った取り組みであり、素材変更だけでなく「使い方そのものの見直し」に踏み込んだ点が注目されます。

🌍SDGsの本質と紙ストローの教訓
SDGsは「見た目のエコ」ではなく、「持続可能な仕組み」を求めています。
紙ストローの事例は、以下のような問いを私たちに投げかけます:
- 本当に環境負荷が低いのか?
- 使う人の満足度や利便性はどうか?
- 廃棄・再利用まで含めたライフサイクルで考えているか?
つまり、SDGsの達成には「素材の変更」だけでなく、設計・運用・消費者行動のすべてを見直す必要があるのです。
🔬紙ストローを越える代替技術は?
紙ストローに代わる素材として、現在注目されているのは以下の3つです:
1. バイオマスプラスチック製ストロー
- トウモロコシやサトウキビなど植物由来の樹脂(PLAなど)
- プラスチックに近い使用感と耐久性
- 一部は生分解性あり(ただし条件付き)
2. 透明セルロース素材
- 海洋研究開発機構などが開発
- 高い透明度と強度を持ち、微生物によって水とCO₂に分解される
- ストローやコップへの加工が可能
3. LIMEX(ライメックス)
- 石灰石を主成分とする新素材
- 水や木材をほとんど使わずに製造可能
- 耐久性が高く、紙よりも加工性に優れる
これらの素材は、SDGsの「目標12」「目標13」「目標14」などに関連し、実用性と環境配慮の両立を目指しています。
✏️サステナブルは「見た目」ではなく「仕組み」
紙ストローの導入と廃止、そしてストロー自体の見直しは、「サステナブル=善」という単純な図式では語れないことを教えてくれます。
環境配慮はもちろん重要ですが、それが実際に使われる現場で機能しなければ意味がありません。
私は、SDGsを語るときこそ「使いやすさ」「継続可能性」「コスト」「廃棄方法」など、現実的な視点と感情的な納得の両方が必要だと感じます。
紙ストローはその象徴であり、私たちが「何をもってエコとするか」を問い直すきっかけになるのではないでしょうか。
🧭まとめ:素材から「使い方」へ、エコの再定義
紙ストローの導入と廃止、そして飲み口付きフタの登場は、SDGsの本質を考えるうえで非常に示唆的な事例です。
「環境にやさしい」とは何か? 「持続可能」とは誰にとっての持続なのか?
企業も消費者も、素材だけでなく使い方そのものを問い直す姿勢が求められています。
そしてその問いこそが、サステナブルな未来への第一歩なのだと思います。



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